そこ知り!010〜012 論文紹介
ヒトの進化とベビーウェアリング

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今回は、国際雑誌に7月に発表されたReview(総説)をご紹介します。一部研究者により諸説ある点もありますが、議論・考えの一つとして読み進めていただければと思います。今回はメルマガ3回分をまとめていますので、休憩をとりながら、お読みいただければと思います。

タイトル:“Carrying human infants – An evolutionary heritage
意訳:ヒトの乳幼児を運ぶー進化で受け継がれてきたもの
Bernadett Berecz 他*。雑誌 Infant Behavior and Development 60(2020)
*著者らについて、筆頭著者のBernadett氏はハンガリーの生物学者であり、他の共著者にはベビーウェアリングコンサルタントや小児の精神と機能発達におけるベビーウェアリングの分野を専門とする医師がいます。

もくじ

ゴール

人類の進化、現代における「抱っこ」の重要性を海外論文から学び、各自の現場でどう活かしていくか自ら考えるキッカケにする。

1● ヒトの赤ちゃんの抱っこはいつ始まった?

霊長類(サル、ヒト、アイアイなど)は5,500万年前から赤ちゃんを抱っこし始めました。抱っこする事で、巣の中の寄生虫や敵から赤ちゃんを守ることができ、生存に強みを見出したと言う説があります。

進化

2● スリングを使うことが我々をヒトとして進化させてきた

毛が無いヒトのH.habilis(ホモハビリス)が一箇所に定住をするようになり、道具を作り始めたりすると、「モノを運ぶ」ということが始まり、赤ちゃんをモノに入れて運ぶことに繋がったと考えられています(120万年前)。
一方で、200万年前のH.erectus(ホモエレクトス)は、既に赤ちゃんをモノに入れて運んでいたという説もあります(抱っこ紐の原型:スリング)。彼らは赤ちゃんをモノに入れて運ぶことで、母親が食糧を採集する間、赤ちゃんを安全な状態にしておけるというメリットがありました。彼らはスリングで赤ちゃんを運ぶことで、脳が大きく複雑化した赤ちゃんを無事に成長させることが可能になったと考えることができます。スリングを使うことは、カンガルーの袋の利点をヒトも得ることに繋がり、赤ちゃんの生存と発達を担うことができる適応の戦略と言え、アフリカ大陸から他の大陸への移動を可能にしました。
親が仕事をしている間、子どもを安全にそばに置いておきたいという、希望と必要性を満たすことが、赤ちゃんを運ぶモノを使うことで実現しており、研究者Taylorは「スリングを使うことが我々をヒトとして進化させてきた」と言っています。

3● 赤ちゃんの社会認知発達における「運ぶこと」の重要性

先述の、赤ちゃんを運ぶ道具を使い始めたホモハビリスは、それまでのヒトに比べて大脳の容積が1.5〜2倍ほどに大きくなり、言語に関わるブローカ野(柳井補足:言語を発することに関わる)とウェルニッケ野(柳井補足:言語を理解することに関わる)の両方がみられるようになったと考えられています。
赤ちゃんは出生後最初の1年に多くのことばを知ります。特に左側に抱っこされていると、親の喋る言葉や表情から感情を読み取りやすいと言われています。前や背中ではなく、腰抱きにすることで、赤ちゃんは体幹を動かしやすく、親子でインタラクションが取りやすくなったと考えられ、言語の学びに影響を与えると考えられるようです。実際、研究者Salkによる過去の調査では、利き手に関係なく70〜85%の母親が子どもを左側に抱っこしており、子どもの父親も同様の傾向があるようです(子どもの父親ではない男性は左右の偏りはなかったそうです)。

画像2

4● 抱っこによる心理学的、遺伝子学的な側面

抱っこで、赤ちゃんは落ち着き、静かになる輸送反応が見られます(※)。また、物理的な接触でオキシトシンが視床下部より放出されます。オキシトシンの長期的な目でみた利点は1) 鎮静効果:血圧とコルチゾルホルモンの低下、2) 健康増進:成長促進、傷の修復、痛みへ対する域値をあげる(柳井補足:痛みを感じづらくする、といった意味)といったものが挙げられ、親子双方に影響が見られます。

※抱っこによる輸送反応
抱っこして歩くと赤ちゃんがリラックスする仕組みの一端を解明 | 理化学研究所

5● 赤ちゃんを抱っこすることによる社会認知機能の発達と愛着形成

研究者Littleの研究では、親子を物理的な接触を伴うグループと、向き合って互いに見つめ合うグループに分けたところ、最初の数週間で子どもに”うつ様”の症状が現れました。抱っこのような物理的な接触は子どもの発達に不可欠で、母子間の長期的な関係性に影響を及ぼすと言えます。若い母親、里親といった家族形成が容易でない場合には、抱っこなどによる物理的接触は特に効果的と言えます。

パパ抱っこ

6● まとめ

400万年にわたる人類の進化の歴史において、二足歩行、手を使って身を護ったり作業をするようになり、子どもを腰だきにするようになったと考えられ、その後、道具を使うようになることと大脳の発達(複雑で、言語を操り、高い知能を持つこと)は関連性が大きいと言えます。物理的(身体的)な接触が親子にとって大切であることが分かりましたが、もし、接触を無くしてしまうと、親子は生涯そして次の世代にまで負の影響を及ぼしかねません。抱っこと言うのは、進化を通して維持され続けてきた行為であり、親子が(健やかに)生存していく為に欠かせないものと言えます。

諸説ある人類の進化と抱っこについて学ぶ機会となりました。筆者らは「若い母親など、子の養育が容易でない家庭に対し、ソーシャルワーカーはベビーウェアリングを進めるべきである」とまで言及しており、ベビーウェアリングの可能性の高さを伺わせます。


日本ベビーウェアリング協会では、安全で(事故を防ぐ抱っこ)、親子双方の健康を守り発達を促す、親子の絆形成を促し心を育む”抱っこ”を周知啓発しています。

「快適抱っこ」のリーフレット

https://bwdacco.com/about-us-2/free-download/embed/#?secret=6WcMjZptm1

抱っこのリーフレットは、無料でダウンロードできる他、ご希望がございましたら、100部(会員2,000円/非会員2,500円)、50部(会員1,500円/非会員2,000円)で印刷・発送も承ります。




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